大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

山形地方裁判所 平成5年(ワ)151号 判決

主文

〈省略〉

(一部省略)

第三 争点に対する判断

一 本件事故の態様及び過失割合

1 甲第三号証、乙第一号証、証人三瓶直之及び同清野雅之の各証言、並びに、被告本人尋問の結果を総合勘案すれば、本件事故は、英男、訴外三瓶直之及び同清野雅之の三名が、対面の信号が黄色で、且つ対面の歩行者用信号が赤であるにもかかわらずこれを無視し、訴外清野雅之、英男、訴外三瓶直之の順でいずれも無灯火の自転車に乗車したまま歩行者用横断歩道を通って交差点を横断していたところに、被告が、交差点左側方向から時速約七〇キロメートルの速度で加害車を運転して接近し、対面の信号が青色であることを確認してそのままの速度で進行したところ、交差点直前において訴外清野雅之が通過するのはかろうじて発見できたものの、同訴外人の動静に注意を奪われたため、その後に続く英男に全く気付かないまま加害車を英男の運転する自転車に衝突させ、これにより、英男は、空中高くはね飛ばされた後に路上に強く打ち付けられ、救急車で病院に運ばれたが、約一八時間後に脳挫傷により死亡したものであることが認められる。

2 ところで、道路を通行する車両が信号機の表示する信号に従わなければならないというのは運転者の基本的な義務である(道路交通法七条)から、対面の信号が黄色で、且つ対面の歩行者用信号が赤であるにもかかわらずこれを無視して歩行者用横断歩道を横断した英男の過失はまことに重大であるといわなければならない。

また、車両等は、自転車も含め、夜間は前照灯等の灯火をつけることは法律上義務付けられている(道路交通法五二条)ところ、自転車の前照灯にあっては、それが自車の走路を照射するという本来の機能を果たすほか、前照灯を照灯することによって、他の車両或いは走行者に対して自車の存在を知らしめる点において重要な機能を果たしていることは周知のことがらであり、夜間に無灯火のまま自転車を走行していた英男の過失はこの点においても甚だ重大である。

なお、乙第一号証、証人清野雅之の証言、及び、被告本人尋問の結果によれば、本件事故現場の交差点一帯は、ガソリンスタンドの照灯や街灯が設置されていて夜間にもかかわらず明るい場所であったことは認められるが、夜間照明に照らし出される物体は照明との位置関係によっては照明の影になって認知困難なことがしばしばあり、特に物体が照明と照明との中間に挟まれたような場合には、正面の照明に幻惑されて物体を認知することが著しく困難となることは通常しばしば経験するところであるから、英男の自転車が無灯火であったことが被告の交差点を横断する英男を発見し得なかったことの極めて重要な要因となったものであろうことは容易に推認し得るところである。

3 一方、加害車の運転手である被告の過失を検討するに、被告は、交差点直前を通過する訴外清野雅之の動静に注意を奪われたために前方に対する注視を欠き、その後に続く英男の運転する自転車を発見できなかった前方不注視の過失がある。

更に、乙第一号証によれば、本件事故現場の加害車の通行する道路は、速度制限規制のない道路であるから、最高速度は六〇キロメートル毎時に制限されている(道路交通法二二条一項、同施行令一一条)ものであると認められるところ、被告は、前認定のとおり、右制限を超える時速約七〇キロメートルの速度で加害車を運転していたものであって、被告としては、前方視認の困難な夜間であることに配慮を致せば、交差点を通過するに際しては、たとえ対面する信号が青信号であっても、本件英男のように信号を無視して進路前方に飛び出してくる者があるかもしれないことを予測して、相当程度減速して通過すべきであったものであり、この点においても被告の過失があったというべきである。

4 以上、検討したところに基づいて、本件事故の英男と被告の過失割合を考えれば、英男が七、被告が三とするのが相当である。

(裁判官 杉本正樹)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例